中耳腔の細菌感染によって発症します。即ち、起炎菌(インフルエンザ菌・肺炎球菌等)が鼻咽腔から耳管(鼻腔と中耳をつないでいる管)を経由して中耳腔に進入して発症します。
具体的には、上気道に炎症(インフルエンザ・感冒・咽喉頭炎等)がある場合に中耳炎を起こしやすいのですが、特にこのような場合に強く鼻をかむと、鼻の細菌が経耳管的に中耳に送られ、中耳炎発症の誘因となります。
小児期に(0歳~10歳)に多く罹患し、特に1歳と5歳に頻度の高まりがあると報告されています。
適切な治療を受ければ、予後は良好です。いったん発生した鼓膜穿孔も閉鎖しまして治癒します。しかし、不適切な治療や、治療を受けないで放置されたままにしていますと、鼓膜穿孔はそのままの状態で残り、慢性中耳炎になります。
また、急性中耳炎から滲出性中耳炎に移行することが問題化されてきていますので、治療継続の要不要については自分で決めないで主治医と相談されることがよいと思います。
滲出性中耳炎はカタル性中耳炎、中耳カタルまたは耳管狭窄症と呼ばれ、近年その概念が広く知られるようになり、また、診断技術の進歩とともにかなりの率でみられることが明らかとなりました。幼少児や老人に多くみられ、幼少児の難聴の原因として最も多い疾患です。言語の発達する4~5歳から小学校の低学年に多く、また、何度も繰り返したり、治りにくい例も多いために大きな問題となっています。有病率は諸家の報告によりますと、6歳から8歳では3~9%、9歳では0~6%といわれています。
耳管の機能障害によって起こります。風邪や急性中耳炎の後に起こることがほとんどで、鼻・副鼻腔やのどの炎症が原因となったり、なおるのを妨げていることが多く、幼少児ではアデノイドが大きいために起こることもあります。一方、成人では鼻咽腔の腫瘍が原因のことが稀にあるため注意する必要があります。耳管は鼓膜の奥にある中耳腔と鼻の奥(のどの上部)とをつなぐ管で、つばを飲み込んだ時などに空気が出入りして中耳腔の気圧を調節し、また、中耳腔にたまった液を排出する働きがあります。鼻・副鼻腔やのどの炎症が耳管にも及ぶとこれらの働きが悪くなるために鼓膜が内側に陥凹したり、中耳腔に滲出液がたまったりします。
成人では耳がふさがった感じや圧迫感、難聴や耳鳴、自分の声が響くなどの症状を訴えます。一方、耳痛や発熱などはほとんど無いため、この疾患が最も多い4歳から7歳位までの小さなこどもの場合は自分から異常を訴えることが少なく、また、難聴があまり高度ではないために周囲も気付かないことが少なくありません。テレビの音を大きくする・呼んでも返事をしない・あるいは、あまりしゃべらなくなったとかで、初めて周囲が気付くことも多いようです。
ほとんどの場合、鼓膜の観察とティンパノメトリー(鼓膜の検査)を行うことによって診断がつきます。難聴の程度を正確に知るためには聴力検査が必要になります。
鼻・副鼻腔やのどに炎症がある場合には、まずそれを治すことが大切です。鼻やのどの炎症がおさまると滲出性中耳炎も自然に治る場合もありますが、良くならない場合には、耳管通気療法(鼻・耳管を通じて中耳腔に空気を送る治療法)を行ったりします。しかし、これだけでは治らないこともあり、このような場合には鼓膜を麻酔して痛みを感じないようにしてから鼓膜を切開し、中耳腔の液を吸引除去することもあります。また、なかなか治りにくい場合や、鼓膜が中耳の壁にひっつく場合(鼓膜癒着症)、真珠腫性中耳炎になりそうな場合などは鼓膜にチューブを入れて外耳道側から空気が通るようにする手術を行います。入れたチューブは、通常は、特殊なタイプ以外は自然に外耳道側に押し出されます。そのため、難治性の場合には何度もチューブを入れないといけない場合があります。
何度も再発したり、なかなか治りにくい場合がありますが、根気よく治療を受けることが大切です。
急性中耳炎の炎症が高度な場合は、鼓膜が自然に破れて中耳にたまった膿を排泄し炎症を収めようとする自然の働きがあります。炎症が治まればこの穴は自然に閉じ、聴力も回復します。しかし抗生物質がなく治療が不十分だった時代の高齢者の方や、風邪をひきやすい体質の方が中耳炎を繰り返しているうちに鼓膜の穴が残ってしまうことがあります。このように鼓膜の穴が閉じずに慢性的に炎症が続く状態を慢性(化膿性)中耳炎といいます。
鼓膜に穴が開いているために、風呂や水泳の時に外部から細菌が入り中耳に炎症を起こし耳だれを生じます。鼓膜の穴の大きさによりさまざまな程度の難聴が生じます。耳だれを繰り返すうちに内耳に影響が及び、聞こえの神経まで傷んでしまいより高度の難聴になってしまうこともあります。
耳鼻科医が鼓膜の穴を確認し、炎症の程度を観察します。耳だれの細菌検査を行い、細菌の種類や抗生物質の効き具合を判断します。聴力検査によって難聴の程度を測定します。
外耳道や中耳をきれいに清掃や洗浄をして、耳だれを取り除きます。細菌に効果のある抗生物質の内服や点耳薬を中耳に直接入れる鼓室注入などの治療を行います。
聴力の改善のためには、側頭骨CT検査を行い中耳の状態をよく観察し、鼓膜の穴を閉鎖する鼓膜形成術、長期の炎症で傷んでしまった中耳の耳小骨の連鎖の回復をはかる鼓室形成術等を行います。耳だれが続く時や聴力の悪化を感じるときは早めに耳鼻科医を受診し治療することが大事です。
中耳炎と呼ばれるもののうち「中耳真珠腫」と呼ばれる特殊な型の中耳炎があります。名称に「真珠」が付いている理由は、病変をきたした鼓膜付近の上皮が層状に蓄積する姿が時に真珠のように白く光沢のある球状を呈するためです。
100年以上も前からその存在が知られていますが、原因は未だ不明です。
「真珠腫」という名前とは裏腹に、この中耳炎は非常にやっかいです。「真珠腫」が周りの骨を溶かして成長を続けるからです。周りには、音を伝えるために重要な働きをする耳小骨や内耳、顔面神経、さらには脳も近くにあります。
軽度の状態での症状は、難聴、臭いを伴う耳だれなどですが、進行するとめまい、顔面神経麻痺、脳膿瘍や髄膜炎をおこしてしまいます。
「中耳真珠腫」の診断は、ほとんどの場合鼓膜を観察するだけでつきます。真珠腫の塊が観察された場合はそれを取って病理組織検査をおこなうことがあります。耳だれがあれば細菌検査をおこないます。単純レントゲンやCTスキャンをとり、病変の拡がりを調べます。
治療は、基本的には手術による真珠腫の摘出が唯一の方法です。手術をしても取り残しがあれば再発してしまうため、進行した真珠腫などに対しては二段階に分けて手術をする場合があります。
手術となれば数週間の入院が必要ですし、手術後も長年にわたり再発がないかどうかなどのチェックを続けることが大事で、根気強く病気と付き合っていく必要があります。
また手術にあたっては真珠腫を取り除いたあと音の伝わる経路を作り直しますが、必ずしも聴力が改善される、あるいは保たれるとはいえません。逆に手術成功のために聴力を犠牲にせざるを得ないケースもみられます。
一方手術を決めるまでの外来レベルでは、真珠腫の塊をできる限り取り除くようにします(この処置の際に一時的にめまいが起こることがあります)。
耳だれに対しては、細菌検査の結果を参考にしつつ有効な薬を選んで用います。以上のような処置により、病変部を乾いた状態にして病気の進行をゆるめるようにします。